寄稿記事 ARTICLE
2024年01月30日
水俣条約通達
既報では昨年11月にスイス・ジュネーブで閉幕した「水銀に関する水俣条約締約国会議」COP5で決定した2027年蛍光管製造禁止により引き起こされる可能性のある深刻な社会機能不全についてお伝えしてきました。
先週、条約締結の日本代表事務局である環境省水銀対策推進室室長と長時間にわたる情報交換をしてきました。この問題の背景にあるいくつかの原因が見えてきましたので続報としてお伝えします。
環境省のホームページにはあたかも水銀公害問題に大きな進捗を見せたかのようなお手柄調の報告が載っています。
環境省HP
「水銀に関する水俣条約第5回締約国会議」の結果について
「水銀による環境の汚染の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定について
しかし、実際にはやらかしてしまった想像もしてなかった危機的状況に後から気づいて対策に悩んでいるかのように見えます。
全国の総量調査もしないまま日本照明工業会の無責任な推測を根拠に、LED照明が不足することがわかっていながらも国際圧力に耐えきれずに見切り合意してしまったというのが事実のようです。
環境省水銀対策推進室も経産省化学物質管理課も日本照明工業会が「なんとかなる。LED生産が間に合わなければ蛍光管の生産在庫を増やしておくのでそれを使って貰えば良い」という本末転倒の作戦を鵜呑みにして、その内容を通達するつもりのようです。
蛍光管が新品でも、2019年に生産終了してしまっている安定器の寿命がきたら不点灯になりLEDに換えなくてはならないのですから意味のない対策です。
決定から2カ月経っても環境省から各省に対して本件に関しての通達も事務連絡も出ないことが、この条約の社会的影響を考えていなかったことの現れであり、現在でも反響を想定し切れずに通達内容を固められずにいる様子です。
一方で、民間とは違い電気料金高騰による財政問題からやっと緒につき始めた膨大な施設を持つ自治体や政府施設のLED化は、正式な通達も事務連絡もないまま3月の来年度予算策定にすでに間に合わない状況です。
環境省水銀対策推進室に話を聞いてみると、2030年を主張する日本に対して主にアフリカ勢が2025年を主張して、両者の間をとって2027年になったとのこと。なぜ米、中、欧でもなくアフリカ勢に負けてしまったのか、そもそもいつの間にアフリカにさえ省エネLED化が5年も遅れるLED後進国になってしまっていたのか。
以下は個人的な推測ですが、ここには日本の照明業界のLED化戦略のミスと、アフリカの背後にある中国の資源外交戦略があるものと推察しています。
LED発光ダイオードの原料となるガリウムは中国、カザフスタン、ウクライナに偏在し、かねてからカントリーリスクが危惧されていました。青色発光ダイオードを発明しノーベル賞を受賞した日本がLED化で世界に遅れをとり、国際交渉の圧力に負けて到底生産が間に合わない需給逼迫を招くことになってしまいました。
国内生産が間に合わない中で国際資源のガリウムや生産資材を抑えられてしまっては、価格も高騰し照明という社会基本機能を他国に握られたことになります。コロナ禍でのワクチン輸入外交で政府が見せた体たらくと同じ構図です。
しかも東日本大震災での電力逼迫から13年間たってもLED化を成し遂げられなかった照明政策と業界利権の構造はこの水俣条約危機においても自浄できないでいるようです。
以下も私の個人的見解です。
日本は照明先進国で多種多様な製品が開発されてきましたが、2000年代に入ってインバーター蛍光灯やコンパクト蛍光管、無電極灯など多様な省エネ商品を打ち出していた矢先に革命的省エネ技術であるLEDが出現したときに経営判断を誤り海外メーカーに出遅れた日本の照明メーカーは、当時の海外蛍光管タイプLEDの輸入攻勢を阻むためにガラパゴス路線を選びました。
当初、落下防止という理由で海外にはない日本独自の口金をJIS化したり、管タイプの製品で海外製品に勝てないことが明らかになってからは器具全体を交換する器具一体型LEDを製品化しました。
極めて残念なことに、この器具一体型方針を決めたときに、ライトバーの規格を統一することをせずに各メーカーが其々に自社でしか通用しない髭剃りのカートリッジ路線をとってしまったのです。日本の世界輸出戦略ともなり得た千載一遇のチャンスにビデオのベータとVHS戦争の教訓は生かされませんでした。
この照明業界と経産省の愚かな判断のツケはすでに消費者にまわっています。いま家電N社が照明分野から撤退するという噂があります。この会社の器具一体型LEDを採用した施設は10数年後にライトバーが切れても他社製品は規格が合わないので交換できずに再び器具ごとの高額な電気工事をしなくてはならないのです。企画を統一しないとはこういうことなのです。
日本だけで起きるガラパゴス&髭剃りカートリッジの悲劇です。
だから蛍光管の世界標準規格は昔から1198ミリでG13口金と決められており、世界のどこのメーカーの製品でも使うことができるのです。
≫世界標準規格のG13口金と日本独自の口金
いま環境省水銀対策推進室はこれらの情報提供によって、通達内容に「LED照明は器具交換でも管交換でも構わない」という内容を盛り込むそうです。
器具交換戦略に走る日本照明工業会は、「管交換タイプLEDは火が出る」というデマチラシを撒いてまで自社製品の利権を守ろうとしています。安定器をバイパスしてあって、10W程度の電流が火災を起こす理由がありません。経産省もそれは認めて業界指導を行い、チラシの後援から名前を消しました。
それでも嘘を上場企業が流しています。昔、安定器を切らずに交換できるレトロタイプといわれた初期のLED製品が全国で24件焦げた事故を、あたかも今の安定器を切る製品も危険であるかのように心象操作しています。照明工業会を主導するP社もT社もM社も一部上場の有名企業です。
いまいくつかの自治体がこのデマに騙されて公共施設のLED化の入札要項に「器具一体型に限る」とか「(溶接してある)安定器を外すこと」など誤った仕様で不合理に管交換を排除し、高額な工事で税金の無駄使いをしているところがあります。
将来的にも特定メーカーの一社しか製造しない規格のライトバーを仕様にすることは根本的な公共入札仕様の考え方にも反するのではないでしょうか。
こういうやり取りのなかで水銀水俣条約の環境省からの通達、事務連絡は近く発信されるはずですが、学校、病院、社会インフラ施設はそれを待たずにLED化の予算化を急いでください。とくにコンパクト蛍光灯は2025年12月に製造禁止ですからなんとしても来年度予算に間に合わせてください。
詳しくはあかりみらいオンラインセミナー
≫日本照明工業会 火が出るフェイクチラシ
≫日本照明工業会 新フェイクチラシ 経産省後援せず
≫悪質な心象操作マンガ
≫環境新聞 2024年1月1日号