寄稿記事 ARTICLE

あかりみらい通信

2023年05月31日

電力自由化の復活

あかりみらい通信

エネルギーコンサルタント/あかりみらいの越智です。
電気料金対策についてシリーズでお送りしておりますが、先日電力自由化の古株で新電力最大手企業、株式会社エネットの東日本本部長と情報交換しました。今電気料金が規制分野で20%から30%台と大幅な値上げが認可され6月1日から実施されますが、高圧の自由化分野の電気料金は業務用電力量料金で北電で80%アップ、東北電力101%、東電38%、中部23%、北陸121%、関西2%、中国125%、四国93%、九州3%、沖縄104%ととんでもない値上げが4月分から始まっています。産業用高圧電力も北電で89%アップ、東北電力30%、東電41%、中部22%、北陸131%、関西0%、中国158%、四国11%、九州1%、沖縄82%の値上げが実施されています。工場の電気料金が倍になって生産を続けられるのか! 地域経済はこれでやっていけるのか! と、みなさん思いませんか。
比較グラフはこちらをご覧ください。(電力量料金にはこの単価に燃料費調整単価と再生エネルギー普及促進賦課金が追加され、9月までは政府補填金低圧7円、高圧3.5円が差し引かれます)

▶全国基本料金単価比較(業務用高圧基本料金5.5.29)

▶全国電力量料金比較(業務用高圧電力量料金5.5.29)

▶全国基本料金単価比較(産業用高圧電力)

▶全国電力量料金比較(産業用高圧電力)


5月に届いた請求書を見て目を向いている経営者が大勢います。もしまだ茹で上げられていることに気がついてないアオガエル会社があれば経理担当者はすぐに社長に相談してください。自治体の財政課長は首長に報告して補正予算の再見積もりをしてください。いまからでも政府に陳情に出向いてください。
先週、ある自治体の第3セクターが経営するホテルの社長から年間7千万円の電気代が1億円を軽く超えることになると悲鳴交じりの相談がありました。この金額をどうやって稼ぐのか。いますぐできることは新電力に契約変更できないか相談することと、リース会社にLEDの長期分割払いをできないか問い合わせるしかないとお答えしています。


■新電力の復活

こんな中でどこかの新電力で引き受けてくれるところはないものかとエネットに全国から問い合わせが集まっているそうです。以前のあかりみらい通信でも書いていますが、今高圧自由化の電気料金がこれほど値上げしているのは燃料価格が上がっているだけではなく、数年前から新電力会社が不安定な電力供給市場からの調達をあきらめ撤退してしまったのが実情です。競争相手がいなくなった既存電力会社は元の独占状態に戻り、なおかつ政府への申請も査定も受けなくてすむわけですから、総括原価方式という普通の商売ではありえない仕組みで価格を設定しています。競争原理で価格が下がるはずだった電力自由化が、競争がなくなってなおかつ誰からもコントロールされない真空地帯が生まれてしまったのです。


先日エネットの事情を聞いたところ、制度設計の不備により瞬間風速で1キロワットアワー500円にもなることがあるような不安定な電力市場からの調達はやめて東京ガス、大阪ガス、北海道ガスなど提携している大手の発電所からの安定した電力を調達し販売するというビジネスモデルに変換したそうです。特に北海道の場合は業務用36%アップ、産業用30%アップの基本料金の驚くべき値上げに電力量料金の80%、89%値上げというとんでもない電気料金水準ならばそれでも十分競争できると踏んでの強い意思表明でした。
非常事態の中で一旦崩壊した電力自由化制度が復活しようとしています。高騰した電気料金により経営危機にある企業やひっ迫している自治体財政の対策として検討の価値がある最後の手段です。


新電力にとっては電力の使い方が一定で需給が予測できるお客さまだと電気の仕入れも効率的にできるので、9時・5時で昼休み1時間のロードカーブが一定の役場や学校、銀行などならば既存電力より安くできるそうです。 さらに、年に何か月しか使わないスキー場やゴルフ場、水産、農産など操業していない時期でも高い基本料金を払わなくてはならない業態ならば基本料金も既存電力より大幅に安くできるそうです。
電力自由化では2016年にロジスティック共同組合という最初の破綻新電力が出て、その際には北海道でも1300件、33自治体に送電停止の通知が来るなど大混乱が起きました。3年前の電力市場崩壊で新電力の倒産が相次いだときには自治体電力入札が不成立になり最低保障約款で2割増の契約に戻らざるを得ない事態も発生しました。ペナルティで2割上がってさらに燃料費調整制度で5割増しといった「泣きっ面に蜂」の自治体もありました。
すべて市民、町民の税金です。
本来は明確な発電、送配電の分割体制のもとにすべての電力会社が電力市場プールから電気を仕入れてコストダウンの工夫で価格競争させる制度設計になるはずでしたが、いまだに骨抜きの体制、不完全な制度のまま今に至っています。電力自由化の目的は競争による値下げです。今でも低圧家庭用ではガスや携帯電話会社等の新電力サービスが生きています。こちらも3割もの価格差がついてこれから新電力市場がどうなるか注目されます。


■沖縄は政治の力で3割値下げ

昨日沖縄のNHKから遠隔でのインタビュー取材があり電気料金対策について解説しました。沖縄は原子力がないので港渡しで4倍にもなった石炭価格を燃料費として計上せざるをなく、家庭用で33%の値上、自由化の高圧業務用では104%の値上げと北海道の水準を超えるレベルになっています。
ただ沖縄という地域の見習うべき強さは経済界、知事、市町村、政治家が一体となり政府に粘り強く働きかけた結果、全国でも沖縄だけの特別措置として政府から市町村へ直接交付される沖縄振興予算特別事業推進費として国の補助を勝ち取り、結果、自治体の持ち出し分も合わせて、県全体としては2.1%の値上げで済んでいるそうです。そうなると沖縄が全国で1番高いはずだったのが他電力よりも安い電気料金負担の地域となりました。
それでも9月までの時限延命措置でしかないかもしれませんが、急激な経済的ショックを和らげる立派な政治的対応だと思います。逆にこれから冷房空調の負担が増える時期にこの延命措置が効いているうちにいろいろな対策を取らなければならないと沖縄官民で真剣な検討がされています。


沖縄には新電力がないため残された手段は照明・空調の省エネか太陽光による自家発電しかなく、あかりみらい沖縄支社でもいろいろな相談を受けています。経営トップ、自治体トップはいまが電気料金の非常事態と認識しあらゆることを検討するべきです。コロナの時の対策は国任せ、専門家任せで全体のムードに流されましたが、電気料金の非常事態で経営危機が迫る中にできる事は全てやるという自分たちの判断で強力なリーダーシップを発揮してください。
リースを活用した照明の完全LED化、空調のAI制御、電力自由化、再生エネルギーの自家消費などまだまだやれる事はあります。
ご相談ください。



■北海道カーボンニュートラルフォーラム2023のご案内■

北海道カーボンニュートラルフォーラム2023のお知らせ。
電気料金高騰とカーボンニュートラルの推進のため最新情報による対策を議論・検討するフォーラムを開催します。環境省から総合政策課筆頭企画官の安田将人氏をお迎えして政府のカーボンニュートラル行動計画と全国での取り組み状況、令和5年度予算、カーボン関連交付金・補助金等についての解説もいただきます。琉球大学堤名誉教授からは太陽光や風力、ZEB、空調制御など現実的な対策の実例を紹介いただきますので省エネ、電気料金対策や環境行動計画の参考にしてください。
また第二部のビジネスマッチングセッションでは空調制御やバイオマス、LED照明など最新環境技術や省エネ製品などのメーカー展示と情報提供を行います。
オンラインでも聴講できますので希望の方はこのメールに返信してください。
後ほどZOOMのご招待メールをお送りします。


日時 2023年6月5日(月)13:00~16:00
会場 北海道経済センター Aホール
参加費無料

▶詳しくはこちらをクリックして下さい


[お問い合わせ] 実行委員会事務局(株)あかりみらい内