寄稿記事 ARTICLE
2023年12月20日
水俣条約の裏側
あかりみらい代表取締役越智です。
先週、水銀に関する水俣条約締約国会議CO5の経緯について経産省科学物質管理課に取材してきました。タライ回しとは言いませんが、縦割りの極致ですね。
これで、いままで環境省地球温暖化対策室、経産省情報産業課、環境省水銀対策推進課と当たって不明だった事実がやっと見えました。
そもそも私たちの理解していなかった状況として、日本は先進国の中でも照明のLED化が遅れていたという事実があります。発光ダイオードを発明してノーベル賞を受賞している国なのに、アジアやヨーロッパに比べてLED化が大きく遅れている。それに対して環境先進国が水銀対策のために早く蛍光管を絶滅してしまえと言う圧力をかけてきた。COP4の時にも2030年を主張する日本と2025年を主張する環境先進国との対立があり、今回コップ5 でその間をとって2027年に決まったというのが真実だそうです。COP5には外務省、環境省、経産省、日本照明工業会も参加したそうで、今回の決定前に経産省と日本照明工業会から2027年に蛍光管製造を終了させても問題は起きないと言う言質をとっての参加だったそうです。
この条約の最終所管課の化学物質対策課との面談までは水俣条約と言うくらいですから、環境省水銀対策推進課がリーダーシップを持って日本が積極的に推進していたのかと勘違いしていました。実際は日本が水銀対策で遅れをとっており、環境先進国から圧力をかけられてこのような決定になったというのが真実でした。
水銀の対策を進めることに異議はありませんが、既報でも書いてある通り、その重大な決定に対する情報公開もなく、政府として準備も対策もとられていないことが問題なのです。
総務省は、地デジ移行のために10年間をかけ、全国民に新型テレビを買うための補助金を配り、それでも10万件の苦情が寄せられたそうです。
今回の強制的照明転換は、一歩間違うと全国的な局所的長期停電(不点灯)につながる大変な問題です。公共インフラや病院や学校、トンネルや空港施設でも寿命の来た照明が切れたままLED資材の供給を待つという状況が想像されます。
問題の根本は、これを決定した人たちがその深刻さに気がついていないことです。経産省情報産業課も環境省水銀対策推進課もそうでしたが、経産省化学物質管理課も照明工業会が大丈夫だと言ったから大丈夫なんだろうという極めて無責任な判断をしています。当日は課長補佐が2人と担当者2人という豪華なメンバーから説明を受けましたが、COP5に参加した照明工業会からは、おおよその数字だがメーカー全体で生産能力は6千万灯あり、大まかに3億灯位の需要があるだろうからなんとかなるとのことであったそうです。割り返すと今すぐ全力で生産しても5年かかることになり。4年後の製造禁止に間に合わないことが初めからわかっています。3億灯の想定が外れてなかったとしても最初から供給が足りない前提で見切り発車してしまったのです。
足りない分をどうするのかという質問には、製造終了になる前に蛍光管を大量に在庫しておくことでLED化が間に合わない分をしのいでもらう作戦だそうです。
ここで恐れ入ったのは、仮にLEDが間に合わなかった人たちが、もうしばらくは蛍光管を使ってくれよと言われて納得したとしても、2019年に製造が終了している安定器の寿命が来たら一環の終わりだということに気づいていないことです。経産省の官僚の方々は蛍光管と安定器が一体で照明が点灯するという基礎知識もなかったようです。
あかりみらい通信のシリーズでお送りしていますが、この11月3日のスイス・ジュネーブからの驚くべき決定の前までは、2019年に見切り決定してしまった安定器の製造終了が安定器の寿命が来た順に停電(不点灯)していく事態を招くことを警告してきました。今回は2027年をもって日本中の照明を全て停電させるという死刑執行命令書に自らサインしてしまったのです。
ここまでの前提は、照明工業会が行っている在庫の積み増しで何とかなるだろうと言う無責任な見解ですが、コロナパンデミックの時にマスクがなくなり、アルコールがなくなり、ワクチンも足りないとパニックになりました。現在もせき薬が足りない、半導体が足りない、自動車は2年待ちとサプライチェーン問題は、現実に社会経済に大きな影響を与えています。半導体不足の影響で、給湯器の製造が間に合わなくなったときには供給されるまでの半年間、水で体を洗っていた人たちもいます。
3億通の需要想定が何の根拠で算定されたか。日本の企業数が3,000,000社で事業所数は5,600,000だそうです。この何割がLEDが終わっているか。1780の都道府県、市町村の膨大な公共施設はせいぜい2、3割しか終わっていません。政府の12省庁が管理する国立の施設がどれだけあるか誰もカウントしていません。130万キロメートルある国道の街路灯とトンネル灯がどれだけあるか国土交通省も把握していません。
先月訪問した熊本市では1200施設で80万灯を数えたそうです。当社が委託を受けた北海道大学の400施設1900フロアの蛍光管数は12万灯でした。この時点でもメーカーの答えは受注生産で1年待ちでした。
なんでこのような愚かな事態になってしまったのか、そこには日本の照明業界と経産省の戦略のミスがあります。
そもそもLEDはまだ市場に出て20年も経っていない新しい分野の製品です。私が北海道洞爺湖サミットの環境総合展事務局長を務めた2008年でもまだ珍しかった蛍光管タイプのLEDで1本2万円の定価がついていました。当時は高くても地球温暖化対策のために格好つけて取り入れようという今で言うSDGsレベルの環境商品でした。これが世界では日進月歩でみるみる価格も下がり省エネ性能を高め、爆発的に普及していきました。日本では当時、40ワットのグロー管が28ワットに省エネされるインバーター式蛍光管がもてはやされ、LED化への生産シフトは出遅れてしまっていました。日本ではインバーター蛍光管の設備投資が終わらない前に、LED が世界市場を席巻してしまっていたのです。当初の蛍光管型LEDはほとんどが輸入品で、国内メーカーはこれに対抗するために世界標準とは違う口金を作ったり、すぐに製造終了してしまったようなJIS規格を作ったりしました。当時、フィリップスやサムスンなど世界的メーカーや台湾、中国製品が日本市場に入ってきて、蛍光管タイプでは到底勝てないという判断のもとに、パナソニック、東芝、三菱といった大手メーカーは器具一体型というガラパゴス戦略に出ました。このガラパゴス製品で海外と対抗しようという作戦です。パナソニックの当初発売した管交換タイプは、独自の一本足口金でインバーター蛍光管とも大差ない22ワットのままもう省エネ改良する気もないようです。現在最新の省エネ性能の管交換LED製品は11ワットまで進んでいるので、管交換では競争にもなりません。そのため、何が何でも器具交換を推さないと商売にならないのです。
普通の大企業がやるとこととは思えませんが、「管交換では火が出る」とか「経産省は勧めていない」など真実と異なる風評を流してでも器具交換方式を強引に進めようとしています。そんなことをやっていたから日本のLED化が世界から遅れてしまったのではないかと推測しています。
≫あかりみらい通信 公共施設LED化における経産省見解について
世界標準口金の管交換方式であれば、最悪の場合に日本メーカーの生産が間に合わなくても海外の製品を輸入することができますが、日本の数社しか作っていないガラパゴスの器具交換方式製品の製造が果たして間に合うのでしょうか?
オマケに。
大変残念な事実ですが、日本の器具交換方式製品のライトバーの規格はサイズも取り付け方もバラバラです。経産省は、日本の世界戦略製品にもできたチャンスを生かせず、βとVHSの教訓を生かすことができませんでした。
我々の運命はこのような方々にかかっています。ではどうすれば良いか。自分の身は自分で守るしかありません。一刻も早く日本中が物不足と人不足で照明転換が間に合わなくなる前に、自分が関する施設だけでも今すぐLED化するべきです。まずは施設の数を数え、どこまでLED化が進んでいるかを把握し、見積もり、経営会議、議会にかけてください。
方法はあり前例もあります。
膨大な施設に途方に暮れて思考停止する前にご相談ください。